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2021/02/09

ストーリー

【ストーリー】「本物の鮨」への飽くなき情熱。「鮨 銀座おのでら ロサンゼルス店」料理長・松木 洋平

松木 洋平(株式会社LEOC 執行役員)

2016年11月にオープンし、“The Michelin Guide California 2019”では2つ星を獲得した「鮨 銀座おのでら ロサンゼルス店」(以下、ロサンゼルス店)。ところが世界中で吹き荒れる新型コロナウイルス感染拡大により、2021年2月現在ではテイクアウトのみの営業を強いられています。

厳しい環境に立ち向かうのが、料理長として同店の運営を統括する松木 洋平。鮨職人としての来し方、「銀座おのでら」との出会い、そして激動の4年間――その中でも揺るがない、松木の「芯」の部分とは。

【諦めきれなかったアメリカンドリーム】

松木(中央)と信頼する社員たち(新型コロナウイルス感染拡大前に撮影されたものです)

松木がロサンゼルス店の責任者として現地に降り立ったのは4年前のこと。しかしその前には、今でも師匠と仰ぐ存在との出会いがありました。

松木「板前の道に入ったのは17年前になります。実はロサンゼルスに留学していたのですが、食べるのにもやっとという状況で・・・。その時に出会った『寿し屋の勘八』の城戸 隆さんに、私の人生を変えていただきました」

城戸氏はロサンゼルスで40年以上板前として活躍した、アメリカにおける江戸前鮨の草分け。松木はその生き方に深く魅了され、帰国して「寿し屋の勘八」の門を叩きました。

松木「『海外で本物の鮨を握る』という夢を持つことができました。日本で鮨の存在は当たり前かもしれませんが、海外へ渡った時、その素晴らしさに気付かされたんです。そして英語が話せなくても、腕一本さえあれば世界で活躍できるというのを、私の師匠に見せていただきました。今でも連絡を取り合う、人生の先輩ですね」

こうして「寿し屋の勘八」で修業を積んでいった松木。ところが、当時海外で本格的な鮨を展開している店はごくわずか。徐々に「海外で本物の鮨を握る」という夢も薄らいでいったといいます。

松木「その時、たまたま縁があって『銀座おのでら』の門を叩いたんです。32歳の時ですね。『これがラストチャンスだ』と思って、一歩前に踏み出しました」

師匠に憧れながらも、一時はあきらめかけた夢。文字通りのアメリカンドリームをつかむため、再び乗り込んだロサンゼルスで待っていたのは、予想だにしない試練の連続でした。

【大きく変わった自覚】

「鮨 銀座おのでら」ロサンゼルス店

意気揚々とロサンゼルスにやってきた松木。ところが、まずはそのカルチャーショックに圧倒されたといいます。

松木「ロサンゼルスですから当然言葉は通じないですし、食の常識やルールは全然違います。ブレてはいけない軸を大切にしつつ、どのように現地の環境に合わせていくのか。それが課題でした」

そしてもちろん、一緒に働く社員もアメリカ人が大半。人財教育も大きな課題として立ちはだかりました。

松木「はじめはできないこともたくさんありましたし、日本人に教えるのとは勝手が違う部分もありました。それでも自分がしっかりと向き合って、一つひとつ辛抱強く教えていかなくてはいけません。一人ひとりを大切にしながら、時間をかけて一緒に成長していく必要がありました」

さらには、日本で考えられないようなインフラ面の不備も浮き彫りとなりました。

松木「断水に停電、それにデモまで・・・。日本では考えられないですよね(笑)。場合によっては、自分が判断して閉店しなければいけません。社員は僕を頼ってくれていますし、お客さまにも早くご連絡しなければいけないですから。でもはじめはその判断がつかなくて、迷うことが多かったです」

日々、想像もつかないような出来事の連続。それでも松木には不思議と、環境に対する愚痴はありませんでした。

松木「今もお店を開ければ、良くも悪くもサプライズの連続です(笑)。でもそうした出来事の数々から、日々成長させていただいていると思っています。何より『自分がこの店を背負っている』という自覚や使命感が、日本にいた頃と大きく変わりましたね」

自覚の変化から、鮨職人として確かな成長を感じたという松木。そしてロサンゼルス店は、大きな飛躍を遂げていきます。

【「松木劇場」、そしてミシュラン獲得】

“The Michelin Guide”公式マスコット「ミシュランマン」とガッツポーズする松木

ロサンゼルス店でまず印象的なのは、カリフォルニアらしく開放的な大窓と、伝統的なスタイルのカウンターの共存。実は松木が「銀座おのでら」の門を叩いたのも、このカウンターの存在が大きかったといいます。

松木「実はカウンターで鮨を握るスタイルは、『銀座おのでら』で初めて学んだんです。職人としてお客様に向き合う格好良さを感じていましたし、ぜひチャレンジしたいと思っていました」

そして松木が繰り広げるのは、そのカウンターの可能性を存分に発揮した「見せる仕事」。一つひとつの所作にこだわり、磨き抜かれた一貫の鮨を創造していくその流れは、いつしか「松木劇場」として大きな反響を呼ぶようになりました。

カウンターでの立ち振る舞いはもちろんのこと、SNSに力を入れているのも同店の特徴。Instagram(公式アカウントはこちら)では、美しい鮨の数々から社員のおどけたショットまで、店の温かい雰囲気が垣間見えます。

松木「私は古いタイプなので、更新は若い社員にお願いしています(笑)。私自身、見るたびに勉強になりますね。これまでの積み上げを崩してしまうようなことには慎重にならなければいけないですが、『やってダメなら』の姿勢でチャレンジしていくことが大切だと思います」

食べる人を楽しませる細やかな工夫の中で、常連の顧客がしっかりとついてきたロサンゼルス店。そして2019年6月、約10年ぶりの開催となった“The Michelin Guide California 2019”において、2つ星を獲得したのです。

とはいえ、松木をはじめとする社員の姿勢に大きな変化はありませんでした。

松木「正直、はじめは実感がわかなかったです。でもお客様は『ミシュラン獲得店』として来店されるわけですから、日々試されている感覚はありましたね。その中で技術や思考の成長につながった部分はありますが、あくまで『目の前のお客様のため』という姿勢は変わっていません」

今や現地住民から中国、ヨーロッパからの観光客まで、グローバルなお客様に愛されるようになったロサンゼルス店。ようやく明るい未来が見えた矢先、新型コロナウイルスの猛威が襲いかかりました。

【反撃の一手へ】

ロサンゼルス店で提供中の「粋 Iki」(200ドル)

新型コロナウイルスの感染拡大により、ロサンゼルスでは外食店の入店が禁止に。松木は落ち込む暇もなく、すぐさまテイクアウトの準備に取り掛かりました。

松木「テイクアウトの折箱の場合、従来のように鮨ができていく過程を見せることはできません。その分、いかに『箱を開けた時のインパクト』を高めていくか。江戸前鮨の折箱の技法を大切にしつつ、それを進化させていっています」

価格は握り鮨で150ドル(約16,000円)から。テイクアウトとしては高額ですが、その分クオリティには絶対の自信があるといいます。

松木「普段の店舗営業だと300ドル(約32,000円)からなので、『銀座おのでら』に関心があるけど今まで手が届かなかったお客様に多くご利用いただいています。価格設定もかなり悩みましたが、『食べていただければ分かる』内容になっています」

試行錯誤のさなか、日本から明るいニュースが。今年1月5日のマグロ初競りにおいて、ONODERA GROUPが一番マグロを落札(詳しくはこちら)。その一部が、ロサンゼルス店にも届いたのです。

松木「さっそくお客様にボストン産のものと食べ比べをしていただきましたが、やはり『全然違う!』という反響をいただきました。一番マグロに触れられること自体が鮨職人にとって誇りですし、その名誉に恥じない仕事をしていきたいです」

振り返ればあっという間だったという、激動の4年間。外食産業にとっては先行きが見えない日々ですが、それでも松木は明るい未来を信じています。

松木「まずはコロナ収束後、また賑わう店になるよう今を大切にしていきたいです。そして、人財教育にもさらに力を入れていきたいです。私自身、ロサンゼルスに出てきたのは『本物の江戸前鮨を現地の方々に伝えていきたい』から。その中で、より『銀座おのでら』を発展させていきたいですね」

 

《「銀座おのでら」ホームページ》
https://onodera-group.com/

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